特殊な仕様
やまもと工藝では生地に合わせて、またお客様の着方に合わせて特殊な仕様を取り入れることもあります。ここではそのいくつかを抜粋してご紹介します。この他にも、ご要望があれば打ち合わせの際にご相談ください。
衿糸
女性長着の衿を折って止めておくのに山本では衿糸をこのように付けています。一般的な衿糸は手に掛かったり、糸が戻ったり…スナップは錆シミや畳んだ時のアタリが心配です。そこで山本では真綿糸を福木で薄く染めて、数本分を特別に撚り合わせた糸を用意しました。(沖縄では福木染めは幸せを招くと言われます)
真綿のため、引いた糸が戻ったり動くこともなく、また使い込むほどにふっくらとしてきます。単純な仕組みで衿糸を付けているので、扱いやすくおすすめです。
裾切れ対応仕立て
着物の裾は非常に痛みやすいところ。痛んでしまってもお直ししやすい様に仕立てています。裾の切れは内側からおこるので、裾の返しの部分をテープ状にした共布で作ってあります。写真の袷では同色の共布で目立たないようについています。単衣の裾は折り返してあるのではなく、縫いくけて付けてあります。裾が切れたらテープの上下を入れ替えて、さらに切れたらテープを取り替えて…と再生がききます。
男性の着物は対丈なので、裾が切れたからといって身丈を短くする訳にもいきません。よく着られる方や擦れに弱い生地の場合にはご指定ください。
袖付けの「ひ打ち仕立て」
男物などの袖付けに取り付ける強度強化と動きやすくするための仕様です。動きやすくするために男物の袖付けを長めにするという考えは間違いです。逆に短く、つまり人形を長くします。そして写真の様に「ひ打ち」をつけると格段に動きやすくは、丈夫になります。活動的な方におすすめの仕様です。
袖口の「ひ打ち仕立て」
きものにとって非常に痛めやすく、切れやすい箇所といえば袖付けや袖口です。きものを着る方々は必ずといっていいほど経験するのが、袖口をドアノブや椅子に引っ掛けて「ひやっ」とすることだと思います。破れてしまったときは、まさに事故。そんなことに対応して少しでも防ぎ対処できるように強度強化と動きやすくした仕様が「ひ打ち仕立て」です。 特に男性の方が袖口を引っ掛けやすく、袖付けも破けやすいですから、男物には必ず施しています。被せるように補強する「八ツ口止め」という技法もありますが、さらに頑丈かつ動きやすい上等な仕様となっています。
「袖口」実用新案 第3187254号
※ご採用の折はご連絡ください
納品例
やまもと工藝でお仕立てしたきものをご紹介いたします。
有松絞り居敷比翼仕立て
これだけの縦の絞りの縞柄を着こなせる人はなかなか現れないと思っていたのですが、背の高いカッコ良い女性が選んでくださいました。胸元は濃いブルーの暈し、膝元は白い絞りのアクセントが欲しいとのご要望をかなえる事が出来ました。
着心地良く滑らせるために淡い浅葱色に染めた綿麻地を居敷比翼にして付けてあります。(居敷比翼とは山本きもの工房の造語です)この染めた綿麻の居敷当ては生地、染め代込みで10,000円、浴衣とは思えないグレードアップです。
ゆうな染め久米島紬
ゆうな染めの久留島紬です。限られた生地の中で全ての柄の段を合わせるのは非常に高度な技術。何とか合わせるのが山本の好みですが、今回はあえて脇の段は半段ずらしてあります。
久留島のグレーの染めは、ゆうなの木を燃やしてできた灰で染めます。よくグレーを銀色と称しますが、これはグレーでも灰で染めた色にしか当てはまらないと認識しています。水に晒しき「ゆうな」の灰まさに美しき銀の世界です。
金彩入れ地紋起こし
お母様から残していただいた帯どうにも地味だけど法事用でもなさそう…何とかならないかと相談を受け、あえて刺繍ではなく地紋起こしの金彩を提案。中心の花紋は24金箔の二重貼りです。一瞬派手?と思いきや見れば見るほど渋く自然と時を経たかの様な金箔にため息です。
加工料代の目安は写真の加工で6万円。量や状況により変わりますのでご相談ください。仕立て上がりの着物に、金彩だけでなく柄を描く事も出来ます。ちょっとしたワンポイントの柄入れもOKお手持ちの着物にいかがですか。
洗える絹の夏きもの
ブルー系絣
やまもと工藝オリジナルで洗える絹のきものをつくりました。強力な撥水加工が施された生地ではなく、洗った時には綿や麻と同じように柔らかく変化をしていく自然な生地。しかしながら、確かに洗える正絹の夏のきものです。
こちらはエメラルドグリーンから藍色へ変わり、ココア色からベージュへ変化していく絣糸で織られています。順番が規則正しく染められた糸を緯糸に使うと、きつい横段の縞模様が現れてしまいます。それが出ないようランダムに模様が出るように工夫し、いい模様の景色を作り出すことができました。
このシリーズは、やまもと工藝の誂え仕立て込みで、18万円~
秦荘紬
斬新、大胆な柄でしたので,柄合わせに大変悩んだ秦荘紬。4段、2段、3段、の連続模様。4段の柄を2段ずつ合わせ、縫い目でずらしながら衽から背まで流れるように、エメラルドグリーンの斜め格子は合わせています。そうすると、3段は1段だけ重なり、2段は重ならずに連続することになります。いつもながら共襟胸元は柄を合わせました。
斜め格子の色に裾回しを染め、胴裏も色のバランスを見て品よく染めています。振りから覗く裏地の色が、何とも言えず良かったねと
語りかけてしまいます。
暖簾(のれん)
沖縄の作家、大城拓也さんが琉球藍を使い綿を染め、織り上げました。なんと屋号は絣で織り出されています。それを引き継いで、お仕立てしました。すべて手縫いにて仕立ててあり、絹の組紐を施してあります。
この組には「入る」という意味があって、
“人が入る”
”福が入る”
“金が入る”
という想いが込められています。
暖簾の仕立てを頼まれると、緊張が走りますね。それは店の看板であり、店そのものを現すと考えているからです。お金の掛け方はピンキリですが・・・